2015年の食トレンドを総括してみると、まず思いつくのが「あの人気店のリニューアル」だ。そもそもが超予約困難店で、なんの不満もなかったであろうのに、、、なぜリスクを追ってまで、リニューアルを果たすのか?
その理由は、オーナーシェフの飽くなき食への探究心、そして顧客をさらに満足させたいというホスピタリティなのだろう!
2日連続となるこちらの企画、第1回目は、客との距離感を縮めるべく「カウンター席」で勝負する3つの名店をご紹介する。
「「川手劇場」とも言われるカウンター席。黒を基調とした店内は、シックでクールでありながら、どこか温かみも感じられるのは不思議」
日本の風土を表現するフランス料理を追求し、革新的な皿を提供し続ける『フロリレージュ』。この予約の取れない人気店が今年リニューアルしたことは大いに話題を呼んだ。
なぜならそれは単なる移転ではなく、川手寛康シェフの新たな挑戦を感じさせる“新境地”だったからだ。
まず目を引くのは大胆な内装。広々としたオープンキッチンが中央に位置し、それをぐるりと取り囲んでカウンター席がある。
「日本産の食材を用い、フランス料理の枠を超えた独自のスタイルを発信する川手シェフ。シェフの調理シーンも間近で楽しめる」
シェフズテーブルの進化系と言うべきだろうか。客は席に着いた瞬間から厨房と一体化し、全身で調理と料理を味わうという何ともドラマティックな仕掛けである。
こうした舞台装置の中で供される料理は、シェフ曰く、「以前よりメッセージ性が強くなった」11品。
皿ごとに「出逢い」「投影」といった発想の基点となる言葉がタイトルに付くが、たとえば「未来へつながる料理・牛」という料理は、今まで加工肉にしかならなかった経産牛にスポットを当て、文字通り、未来へつながる食材の可能性を発信したものだ。
「「未来へつながる料理・牛」では、経産牛の干肉、クズ野菜から取ったコンソメを使用」
このひと皿に代表されるように、「現状の既成概念を打ち破り、社会全体の食に訴えかける情報を発信したい」という想いが川手シェフにはある。そんな食の未来まで見据えた彼の新境地を、ぜひ体感してほしい。「カウンター席がメインだが、厨房脇には半個室のスペースも用意されている」
「無機質なモノトーンで統一された店内は、死=ネガティブさをイメージ。これにより料理という生=ポジティブな存在がさらに際立ってくるのだとか」
スペインの三ツ星レストランとして名を馳せた『エル・ブリ』。そこで研鑽を積んだ異才のシェフ・永島健志氏が東京・要町に新機軸のレストラン『81』をオープンし、美食家たちの度肝を抜いたのはまだ記憶に新しい。
ところがその興奮も冷めやらぬうちに2015年9月9日、西麻布へと活躍の場を移すことになった。「「森」をテーマにしたコースのひと皿目に供される「落葉の抽象表現」。67℃で8 時間乾燥させた生ハムとグリッシーニがゲストを森の中へと誘う。奥はポルチーニと醤油を配合した「スニッフ」。鼻に抜ける感覚で森の土の香りが」
店舗は1Fがウェイティングスペース、2階がメインダイニングという構成。メインダイニングに入った瞬間、まず驚くのが、個性的なコの字型カウンターをはじめ、床や壁まで全て黒のグラデーションで統一されている点だ。
「飲食店としては規格外かもしれませんが、店内は『死』をイメージしています。その空間で料理という『生』を楽しむ。その対比を表現したかった」と永島シェフ。彼にとっての料理は、ゲストが入店した時点で始まっているのだ。
「サウンドプロデューサーがDJブースで料理やシーンごとに異なる楽曲を披露」
そして料理がスタートすると同時に閉ざされていた厨房への扉が開く。役者が勢揃いし、文字通り至高のディナーが幕開けする。同時にクラシカルな雰囲気のゆったりとした音楽が流れてくる。ひと皿ごとはもちろん、同じ皿の合間でも必要とあれば音楽が変わってゆく。
「皿の上だけでは料理は完成しないというのが僕の哲学。味覚、嗅覚、視覚や触覚だけでなく聴覚まで使って楽しめてこそ、はじめて優れた料理だと思うんです」
なるほど「五感で楽しむ料理」という言葉はよく使われるが、永島シェフほどこの言葉を体現した料理を生み出す人物がいるだろうか。
「奇抜さをクローズアップされがちな永島シェフだが、その料理哲学に微塵もブレはない」
そんなシェフは今回のリニューアルを「心機一転というより脱皮という感覚に近い」と語る。従来通り、定時に一斉スタートという独自のスタイルはそのままに、テーブルが8名から12名へとキャパシティが拡大した。
「言うなれば、要町時代は個人でやっていたようなもの。でも今は裏方も含め100人近い人が『81』というプロジェクトに関わっています。つまりやれる幅も格段に広がっているんです」
新たにスタートした『81』劇場の第二幕ではどんなサプライズを我々に見せてくれるのか。しばらく目を離せそうにない。
「要町時代からのリピーターにも定評がある「カルボナーラの再構築」」
広々としたテーブス席はもちろんだが、特に注目したいのが、厨房を臨む個室のカウンター。小林シェフの調理風景も間近で見られる
今年、飲食業界を震撼させたことのひとつが「小林シェフが軽井沢から銀座へ!」というニュース。多くの食通を虜にするイタリア料理界の鬼才、小林幸司シェフが銀座に、しかも商業ビルを選んだのが意外だったため、まずはその疑問をぶつけてみた。
「既成のイタリアンにとらわれない、斬新なメニューがいっぱい。見た目の美しさも食欲をそそる」
すると「銀座は“ハレ”のステイタスがある。特別な場所という感じ。食事をする場所が銀座と言われたら晴れ晴れした気分になりますよね。働く者にとっても同じなのです。そういう環境を作りたかった」と明かす。
窓から眺める銀座の景色も、軽井沢とのギャップがまた楽しい。そんな一日一組限定だったシェフの料理が堪能できるとなれば、このチャンスを逃す手はない。シェフ手書きのメニューは『Fogliolina della Porta Fortuna』の頃から変わらない。
「味、盛り付け、温度、すべてに完璧な料理が小林シェフの手によって完成される」
一組のためだった最高の料理ともてなしを今は24席に提供してくれる。ドーム型のパプリカのなかからパスタがでてくるなど、シンプルに見えるがとてつもなく手間がかかった革新的な料理も健在。
独創的で誰にも真似をすることができない味で、ひとつ事を極める職人が作るとこうも違うものかとため息が出る。Fèffeの“F”は『Fogliolina della Porta Fortuna』の“F”。そのスピリットは確かに受け継がれている。
「銀座らしいゆとりのある空間で最高の料理を待つ」
【東京カレンダーの関連記事】
その理由は、オーナーシェフの飽くなき食への探究心、そして顧客をさらに満足させたいというホスピタリティなのだろう!
2日連続となるこちらの企画、第1回目は、客との距離感を縮めるべく「カウンター席」で勝負する3つの名店をご紹介する。
「「川手劇場」とも言われるカウンター席。黒を基調とした店内は、シックでクールでありながら、どこか温かみも感じられるのは不思議」
臨場感満点のカウンターでいただく至福のフレンチ『Florilege』
日本の風土を表現するフランス料理を追求し、革新的な皿を提供し続ける『フロリレージュ』。この予約の取れない人気店が今年リニューアルしたことは大いに話題を呼んだ。
なぜならそれは単なる移転ではなく、川手寛康シェフの新たな挑戦を感じさせる“新境地”だったからだ。
まず目を引くのは大胆な内装。広々としたオープンキッチンが中央に位置し、それをぐるりと取り囲んでカウンター席がある。
「日本産の食材を用い、フランス料理の枠を超えた独自のスタイルを発信する川手シェフ。シェフの調理シーンも間近で楽しめる」
シェフズテーブルの進化系と言うべきだろうか。客は席に着いた瞬間から厨房と一体化し、全身で調理と料理を味わうという何ともドラマティックな仕掛けである。
こうした舞台装置の中で供される料理は、シェフ曰く、「以前よりメッセージ性が強くなった」11品。
皿ごとに「出逢い」「投影」といった発想の基点となる言葉がタイトルに付くが、たとえば「未来へつながる料理・牛」という料理は、今まで加工肉にしかならなかった経産牛にスポットを当て、文字通り、未来へつながる食材の可能性を発信したものだ。
「「未来へつながる料理・牛」では、経産牛の干肉、クズ野菜から取ったコンソメを使用」
このひと皿に代表されるように、「現状の既成概念を打ち破り、社会全体の食に訴えかける情報を発信したい」という想いが川手シェフにはある。そんな食の未来まで見据えた彼の新境地を、ぜひ体感してほしい。「カウンター席がメインだが、厨房脇には半個室のスペースも用意されている」
「無機質なモノトーンで統一された店内は、死=ネガティブさをイメージ。これにより料理という生=ポジティブな存在がさらに際立ってくるのだとか」
「死」から生まれる「生」の限りを尽くした五感を駆使する劇場型晩餐会『81』
スペインの三ツ星レストランとして名を馳せた『エル・ブリ』。そこで研鑽を積んだ異才のシェフ・永島健志氏が東京・要町に新機軸のレストラン『81』をオープンし、美食家たちの度肝を抜いたのはまだ記憶に新しい。
ところがその興奮も冷めやらぬうちに2015年9月9日、西麻布へと活躍の場を移すことになった。「「森」をテーマにしたコースのひと皿目に供される「落葉の抽象表現」。67℃で8 時間乾燥させた生ハムとグリッシーニがゲストを森の中へと誘う。奥はポルチーニと醤油を配合した「スニッフ」。鼻に抜ける感覚で森の土の香りが」
店舗は1Fがウェイティングスペース、2階がメインダイニングという構成。メインダイニングに入った瞬間、まず驚くのが、個性的なコの字型カウンターをはじめ、床や壁まで全て黒のグラデーションで統一されている点だ。
「飲食店としては規格外かもしれませんが、店内は『死』をイメージしています。その空間で料理という『生』を楽しむ。その対比を表現したかった」と永島シェフ。彼にとっての料理は、ゲストが入店した時点で始まっているのだ。
「サウンドプロデューサーがDJブースで料理やシーンごとに異なる楽曲を披露」
そして料理がスタートすると同時に閉ざされていた厨房への扉が開く。役者が勢揃いし、文字通り至高のディナーが幕開けする。同時にクラシカルな雰囲気のゆったりとした音楽が流れてくる。ひと皿ごとはもちろん、同じ皿の合間でも必要とあれば音楽が変わってゆく。
「皿の上だけでは料理は完成しないというのが僕の哲学。味覚、嗅覚、視覚や触覚だけでなく聴覚まで使って楽しめてこそ、はじめて優れた料理だと思うんです」
なるほど「五感で楽しむ料理」という言葉はよく使われるが、永島シェフほどこの言葉を体現した料理を生み出す人物がいるだろうか。
「奇抜さをクローズアップされがちな永島シェフだが、その料理哲学に微塵もブレはない」
そんなシェフは今回のリニューアルを「心機一転というより脱皮という感覚に近い」と語る。従来通り、定時に一斉スタートという独自のスタイルはそのままに、テーブルが8名から12名へとキャパシティが拡大した。
「言うなれば、要町時代は個人でやっていたようなもの。でも今は裏方も含め100人近い人が『81』というプロジェクトに関わっています。つまりやれる幅も格段に広がっているんです」
新たにスタートした『81』劇場の第二幕ではどんなサプライズを我々に見せてくれるのか。しばらく目を離せそうにない。
「要町時代からのリピーターにも定評がある「カルボナーラの再構築」」
広々としたテーブス席はもちろんだが、特に注目したいのが、厨房を臨む個室のカウンター。小林シェフの調理風景も間近で見られる
一日一組限定だった味とサービスが、銀座の夜景とともに楽しめる『Ristorante Fèffe』
今年、飲食業界を震撼させたことのひとつが「小林シェフが軽井沢から銀座へ!」というニュース。多くの食通を虜にするイタリア料理界の鬼才、小林幸司シェフが銀座に、しかも商業ビルを選んだのが意外だったため、まずはその疑問をぶつけてみた。
「既成のイタリアンにとらわれない、斬新なメニューがいっぱい。見た目の美しさも食欲をそそる」
すると「銀座は“ハレ”のステイタスがある。特別な場所という感じ。食事をする場所が銀座と言われたら晴れ晴れした気分になりますよね。働く者にとっても同じなのです。そういう環境を作りたかった」と明かす。
窓から眺める銀座の景色も、軽井沢とのギャップがまた楽しい。そんな一日一組限定だったシェフの料理が堪能できるとなれば、このチャンスを逃す手はない。シェフ手書きのメニューは『Fogliolina della Porta Fortuna』の頃から変わらない。
「味、盛り付け、温度、すべてに完璧な料理が小林シェフの手によって完成される」
一組のためだった最高の料理ともてなしを今は24席に提供してくれる。ドーム型のパプリカのなかからパスタがでてくるなど、シンプルに見えるがとてつもなく手間がかかった革新的な料理も健在。
独創的で誰にも真似をすることができない味で、ひとつ事を極める職人が作るとこうも違うものかとため息が出る。Fèffeの“F”は『Fogliolina della Porta Fortuna』の“F”。そのスピリットは確かに受け継がれている。
「銀座らしいゆとりのある空間で最高の料理を待つ」
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