旅先でお寺を巡ると、たくさんの美しい仏像を目にします。その雰囲気を味わいたくてなんとなく鑑賞してはみるものの、実は意味はよくわからないという人も多いのではないでしょうか? そこで、神社、寺旅研究家の吉田さらささんに、仏像を鑑賞する際のポイントを教えてもらいました。
修行の完成度や役割が違う、意外と知らない仏像の種類
如来の特徴である螺髪(左下)や、不動明王特有の総髪(中央)、十二神将、蔵王権現などに見られる焰髪(えんぱつ・左下)など、髪型も注目ポイントのひとつ
まず、仏像の種類にはどんなものがあるのでしょうか。そもそも、仏様は悟りに近い順から、如来・菩薩・明王・天の4つのグループに分類されるそうです。
<如来> 仏の中の最高位で、修業を完成して悟りを開いた存在です。一部の例外を除き華美な装飾品はなく、衣をまとっただけの質素な姿をしています。頭の上に盛り上がりがあり、『螺髪(らほつ)』といって渦を巻いた髪型が特徴的です。
<菩薩> 如来の次の位で、悟りを求めて修行を重ねている仏様です。冠やネックレスなど豪華な装飾品を身にまとい、髪は高く結い上げています。また、菩薩の中でも「観音様」は種類が多く、基本形となる「聖観音菩薩」以外にも「十一面観音」「千手観音」など様々な姿で表現され、親しみやすい仏像です。
<明王> 仏の世界と敵対する人を救済してくれる仏様。如来の教えに従わなかった人を更正する役割なので、怒りの形相をしています。髪の毛が逆立っていたり、光背に炎が渦巻いていたりと、日本人の表現の豊かさが表れています。
<天> もともとは古代インドのヒンドゥー教やバラモン教など、仏教以外の宗教で崇められていた神々を、仏教に取り込んで誕生した仏様。天に属していて、仏法を守る役割を持っています。弁財天のように女性の姿をしている像や、鳥や象の頭を持つ像などもあり、バラエティー豊かな表現が特徴です。
仏像の注目ポイントと鑑賞時のマナーとは?
阿弥陀如来に見られる「阿弥陀定印(あみだじょういん)」(右下)や、大日如来だけが結ぶ「智拳印(ちけんいん)」(右上)など、印相(いんぞう)によって仏像を見分けることも
では、仏像を見るとき、どんなところに注目するとおもしろいのでしょうか?
「まずは、如来・菩薩・明王・天という4種類の仏像があることを知っておくと、それぞれの仏像が持つ役割を理解できて、鑑賞がよりおもしろくなると思います。髪型、手の形(印相)、持ち物、乗り物などの細部も、仏像によってそれぞれ特徴を持ち合わせているので、ポイントを押さえれば意外と簡単に見分けられるようになります。
例えば、仏像の手をよく見ると、像によって様々な形で組まれているのがわかります。この手の形は『印相』といって、全てにきちんと意味があるんですよ。指で輪っかを作っているのは阿弥陀如来の特徴ですね。」
指で輪っかを作る阿弥陀定印は、心を静かに落ち着かせるという意味があり、阿弥陀如来が瞑想に入る時の印相です。大日如来の智拳印は最高の悟りを意味するそうです。
「また、ペアになっていたり、何体かで一組になっている像もあります。例えば、寺院の門の左右に立つ金剛力士像は、口を開けた阿形と、口を結んだ吽形の2体を一対として安置されています。一緒にいる像同士の組み合わせも覚えておくとおもしろいですよ。」
仏像の種類については、図解本など多数出版されているので、鑑賞の際は一冊持って行くのがおすすめなんだとか。まずは一番わかりやすい髪型から区別をつけるといいそうです。
そして、仏像は芸術作品である以前に、信仰の対象です。鑑賞する際には、マナーをきちんと守ることも忘れないようにしましょう。
「観光で訪れただけでも、仏像を鑑賞する前にまずはお参りをするのがマナーです。また、仏像は触らない、写真を撮らないのが基本のルールです。地方のお寺などでは写真撮影OKな場合もありますが、ひと言断ってから撮るようにしましょう。また、一般に開放していないお寺の場合、事前に連絡をしておくと、本堂に上げていただける場合もありますよ。」
お寺は神聖な場所であることを忘れずに、マナーを守って鑑賞したいですね。
寺旅研究家・吉田さんおすすめ!一度は見ておくべき美しい仏像3選
これまで数多くの仏像を見てきた吉田さんに、一度は見るべき美しい仏像を教えてもらいました。
1、中宮寺の如意輪観音(にょいりんかんのん)(奈良) 国宝。飛鳥時代の作。右手をわずかに頬に当てて優しく微笑むお顔が印象的。飛鳥時代の彫刻の最高傑作としても有名です。「スフィンクス」「モナ・リザ」とともに「世界の三つの微笑像」ともいわれています。
2、醍醐寺の如意輪観音(にょいりんかんのん)(京都) 重要文化財。平安時代の作。現在は醍醐寺の霊宝館に展示されています。ふくよかなお顔と、柔らかな身のこなし、6つの手のバランスが美しい仏様。10世紀前半頃に作られたと言われています。
3、平等院の雲中供養菩薩(うんちゅうくようぼさつ)(京都) 国宝。鳳凰堂の壁を飾る52体の菩薩像。ご本尊の阿弥陀如来坐像と同じく、平安を代表する仏師・定朝の工房で作られたと伝えられています。雲に乗って楽器を奏でたり、舞を舞ったり、合掌したりと、様々な姿勢をとっているのが特徴。現在は鳳翔館に半数を移して展示されています。
「これはあくまで私の好きな仏像です。たくさんの仏像を鑑賞する中で、皆さんがそれぞれの美的感覚でお気に入りの一体と出会えると良いと思います。
私はお寺の外にある石仏も大好き。例えば羅漢は色々なポーズや表情が豊富にあって、じっくり鑑賞するとおもしろいんです。お寺の中で保管されている仏像と違って、写真も自由に撮れますし、触ることもできて、より親しみやすいと思います。」
仏像には様々な意味がある…といっても、難しく考える必要はありません。なんとなく顔が気に入ったとか、ポーズがダイナミックで好きという理由もアリです。お気に入りの仏像を見つけて、もっと鑑賞を楽しみましょう。
取材協力/吉田さらささん
岐阜県出身。大手出版社で編集者として勤務後退社。京都・奈良で宿坊に泊まりながらお寺を巡った経験から、テラタビスト(寺旅研究家)として執筆活動を開始。その後神社の魅力にも魅せられ、現在は、寺と神社の旅研究家として、執筆、講演、ツアーの企画などを行っている。
http://home.c01.itscom.net/sarasa/
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